2015年のお話~個人的ステージベスト3~

ローマ歌劇場楽屋通路にて

ローマ歌劇場正面、中央ポスター2枚がナイチンゲール

1.ローマ歌劇場バレエ団『ナイチンゲールの歌』、ローマ歌劇場

「幻」のバレエ・リュス作品が上演されると聞いてかなりの強行軍でローマまで見に行きました。「幻」というのは、ディアギレフが依頼し、美術・衣裳デザインが完成したにも関わらず上演されなかったからです。(実際に上演されたのはその後アンリ・マティスに依頼し直されたのもの)

未来派の画家の一人だったフォルトゥルナート・デペーロによる衣裳は「ナイチンゲール」以外は造形物といった方がいいような形のものばかり。デペーロ・デザインは上演されたことがないので、マティス・デザインで上演された際のレオニード・マシーン振付によるものでした。デペーロ・デザインで上演されていたら振付も違うものになっていたと思いますので、フェアな見方ではないかもしれませんが、今回の舞台を見て、ディアギレフがデペーロ・デザインを採用しなかった理由の一端がわかったような気がしました。つまり、デペーロ・デザインを不採用としたのは、ディアギレフが想像以上に「ダンス」を踊る「身体」というものを大切にしていたからではないかと感じたのです。

やはり、資料だけでは分からない事は沢山あるものです。研究というのは手間がかかっても「現場へ行く」というが欠かせないと改めて思いました。

同時上演された、『カルミナ・ブラーナ』は正直なところ特に期待していなかったのですが、素晴らしい作品でした。エマニュエル・ウンガロのデザインのオシャレな衣裳は舞台衣装として素敵なだけでなく、着てみたいと思うものも…。初日カーテンコールでは82歳になるご本人も晴れやかな顔で登場しました。ローマ歌劇場の芸術監督でベルギー人の父を持つミシャ・ヴァン・ホッケのスタイリッシュでパワフルな振付と相まって忘れられない『カルミナ・ブラーナ』になりました。ちなみに、ホッケはバレエ・リュスの重要なダンサーの一人オルガ・プレオブラジェンスカヤに学び、プティ、ベジャールの元で踊った後、ムードラの芸術監督も務めたという20世紀バレエ史を体現するような人物です。

ローマ滞在は短いながらも、この他にフォルトゥナート・デペーロ展に加え、思いがけなく会期延期されていたカラヴァッジョ展も見ることができる幸運に恵まれました。研究の面から意義深い旅だっただけでなく、プンタレッラの時期でもあり、美味しいお食事ももちろん楽しみました。

2.坂東玉三郎『壇浦兜軍記 阿古屋』、歌舞伎座

初めて見た歌舞伎は、父に連れて行ってもらった「タマタカ」の『仮名手本忠臣蔵』お軽勘平でした。藤色の着物の玉三郎のあでやかさ、巻物の手紙を手繰る手つき、今でも鮮明に思い出せるほどです。もう演じないとも言っていたような気がする『阿古屋』を上演すると聞いて、見に行きました。バレエと違い年齢を重ねた芸の深淵も魅力的な歌舞伎。個人的には「眼福」と言うほかないと、出てきた時につい「ほぉ~」とため息が出るのも納得できる美しい姿でした。私は歌舞伎は素人ですから、楽しみとして、また個人的な贔屓も強いとは思いますが、いいものを見ました。新春の坂東玉三郎は『郭文章 吉田屋』の「夕霧」、と大役続きです。こちらも楽までに是非見に行きたいと思っています…。

3.ボヴェ太郎『寂寥の薫-能≪楊貴妃≫』、京都文化博物館別館ホール

トヨタ・コレオグラフィー・アワードに出場された頃からほとんどの公演を追いかけてみているダンサー・振付家。抑制され、そぎ落とされた動きながら、空間を“ぐわん”と動かし、時にかき回すような独特の身体は他に例がないと感じています。

それゆえに次作への期待も大きくなってしまうにも関わらず、ほぼ毎回その期待を上回るすごさがあります。最近はより難しい、使いこなしにくい会場を舞台にする傾向があるかもしれません。

 

今回は京都文化博物館別館、国立指定重要文化財だそうですが煉瓦のホールが会場でした。そこで響く能楽は能楽堂とは全く違う、ロック、ともいえるような力のあるもの。その中で舞う肉体は時にあでやか、そして時に悲痛、とあっという間の時間でした。(ダンスというよりもご本人も使われていますが「舞う」と言う言葉がしっくりきます)今後の活動もとても楽しみです。

東京公演が少ないと言う声も聞きますが、遠くまででも見に行く価値があるでしょう。関西公演がほとんどなので、「京の都」を楽しむこともできますし…。

 

ボヴェ太郎ウェブサイト:http://tarobove.com/