ライヴ・ビューイング含め、バレエ映画の公開も例年より多い年でした。近年増えていますが、バレエやバレエ公演への入り口になればいいなと思っています。『ボリショイ・バビロン』は公開中に人事が発表されるなど映画の続きが現実で…というリアルもありましたし、話題の多い年だったように思います。
そんなバレエ映画も見たものの、今年の極私的なベストは以下の3本です。
1.『パリよ永遠に』(原題:DIPLOMATIE) 監督:フォルカー・シュレンドルフ、仏・独、2014年(日本公開2015年)
舞台のほとんどが現在もパリ屈指の高級ホテルとして知られるホテル・ムーリスの室内。パリの徹底的な爆破と破壊を命じられたドイツ軍防衛司令官コルティッツとパリで生まれ育ったスウェーデン領事館ノルドリンクのやり取りが中心ですが、それぞれの立場、言葉、心の駆け引き、どれもが観客を惹きつけ、全く飽きさせません。ウィットに富み、時に皮肉を言い合いながら妥結点を見出すという「外交」の原点のような会話。
舞台をベースにした作品だそうです。原題の外交官の方が内容に即しているように思いますが、邦題には「パリ」なのかしら、と思ったり…。
外交、というのはどういうことなのか、外交のあるべき姿をみたような清々しい気持ちになる一本でした。知識、文化、知恵、といったものを駆使して行われる国同士でありながら個人対個人にもなりうる「外交」が時代の変化の問題ではなく、人材という点でも現在の日本との他国ではもはや臨むべくもないという現実には情けないばかりですが…。
エンド・ロールで流れたジョゼフィン・ベーカーも印象的でした。彼女をデビューさせたのがバレエ・スエドワ主宰者だったスウェーデン貴族ロルフ・ド・マレ、というのはもっと知られて欲しいなとも思いつつ。
2.『パレードへようこそ』(原題:PRIDE)監督:マシュー・ワーカス、英国、2014年(日本公開2015年)
バレエ映画としてヒットした『リトル・ダンサー』も実は舞台の半分は炭坑で、炭鉱夫のデモの画面が沢山ありました。同じ時代の炭坑夫の戦いをゲイが支え、最初は戸惑いつつも共に手を取り合って戦っていくという姿が描かれた一本です。未だLGBTとの共闘の可能性が極めて低い日本から見ると信じられないような気持ちになりますが、英国のある種のリアリティのある美しいストーリーです。
ちなみに映画『リトル・ダンサー』のミュージカル版『ビリー・エリオット』は来年日本公演予定。ミュージカル版を改めてライブ・ビューイングで見ましたが、ロンドンでは聞き取れなかったディテールが分かって興味深い点がありました。
3.『GONIN サーガ』監督:石井隆、日本、2015年
たまたま深夜番組でこの映画の第1弾が放映されていて、見始めたら止まらなくなりました。その後の監督インタビューで、最近は原作がある映画が多いが、自分は映画でしかできない映画を撮りたいと、それができている幸せな監督だと自覚しているという要旨の発言をなさっていて、俄然興味がわき、見に行きました。
出張先神戸でしたので、山口組分裂抗争最中でもあり、その筋のような方もちらほらと…という臨場感のある劇場で楽しみました。
任侠物とくくってはいけないでしょうけれど、歌舞伎の忠臣蔵からつながる、仁義で生きる人達の熱さは見ていて納得させられるものがあります。「絆」より「仁義」かな、という…。世代を経て因縁、まさにサーガという映画。まだ続編を期待したくなります。