映画『新世紀 パリ・オペラ座』(原題:The Paris Opera)
パリ・オペラ座はガルニエ宮もバスティーユもどちらも一つの町のような劇場だと思います。
この映画は、新たな切り口からオペラ・ハウスの巨大な組織という実像にせまろうとしているように感じました。
ジャン=ステファヌ・ブロン監督は、フレデリック・ワイズマン監督の『パリ・オペラ座のすべて』でガルニエは描かれ切っているし、他にも撮られているからという理由でバスティーユを中心としたと語っているそうです。
変容するオペラ座、「現代」のオペラ座を描こうと思った場合、ガルニエの圧倒的な艶やかさよりもバスティーユの方がイメージに合うでしょう。また、バスティーユというのは、革命の勃発した場所、権力を打破する象徴的な場所でもありますから、そんな事も背景にあるのかもしれません。彼が描こうとした新しいオペラ座の姿は地殻変動のさなかの姿ですから、バスティーユがふさわしかったのでしょう。
私が初めてバスティーユを訪れたのは1992年。毛利臣男氏美術・衣裳の『白鳥の湖』がとても印象的でした。また劇場から見える光景がこれまでのガルニエとは違った下町風であることも当時は少し不思議に感じたのも覚えています。
今での図書館がガルニエ宮にあることもあり、バスティーユはバレエやオペラそして講演でアンフィテアトルを訪れた位ですから、見たことのないバスティーユ・オペラ座を映画で垣間見られたのも楽しい事でした。
『学校とオペラの10カ月』という芸術・文化に触れる機会のない子供たちのプログラムは不勉強にして知りませんでした。英国ではフェスティバルホールでそのような公演に立ち会って感激したことがあるのですが、パリ・オペラ座にもそのようなプログラムがあり、25年以上続いているとはすばらしい事だなと思いました。どうしてもバレエ中心でスケジュールを組んでしまいますが、是非公演にも立ち会ってみたいものです。
バレエではミルピエのバレエ芸術監督辞任、オレリー・デュポンの就任が描かれていますが、はっとする台詞も色々。ここまでよく撮れたな、とも思いました。チケットの価格をめぐるリアルなやり取りなどまさに「今」動いているオペラ座を感じました。是非ご覧になって「おっ」と思って下さい。
バレエという側面からは2016年に日本公開された『ミルピエ~パリ・オペラ座に挑んだ男~』(Relève : histoire d'une création)や『パリ・オペラ座を継ぐ者たち』と併せてみるとより理解が深まりそう。
今年はバレエ、オペラ座の映画が豊作な珍しい年で、嬉しい限りです。
この映画を見て実際に舞台へ足を運ぶ観客が増えたらいいな、とも思います。
公開は都内ですとBunkamuraシネマなどで12月9日から。
============================================================
タイトル:「新世紀、パリ・オペラ座」
公開表記:12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
クレジット:(c) 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS
配給:ギャガ
============================================================
監督:ジャン=ステファヌ・ブロン
出演:・ステファン・リスナー(オペラ座総裁)、バンジャマン・ミルピエ(芸術監督)、オレリー・デュポン(芸術監督)、フィリップ・ジョルダン(音楽監督)、ロメオ・カステルッチ(オペラ演出)、ブリン・ターフェル(バリトン)、ヨナス・カウフマン(テノール)、オルガ・ペレチャッコ(ソプラノ)、ミヒャエル・クプファー=ラデツキー(バリトン)、ジェラルド・フィンリー(バリトン)、ミハイル・ティモシェンコ(期待の新星)
原題:The Paris Opera /2017/フランス/カラー/110分/字幕翻訳:古田由紀子/字幕監修:堀内修