グロリア・スワンソンとルドルフ・ヴァレンチノ

◆ 2 ◆ ヴァレンチノとの友情

私が最初にみたヴァレンチノは写真でした。その完璧といってもいい美しさに驚きました。その後『シーク』『血と砂』といった作品を見る機会があり、動いていてもいちいち「さまになる」役者だなぁと思いました。

バレエ・リュスの研究を進める中で彼が死んだ1926年の葬儀に10万とも20万ともいわれる人が集った様子なども知り、その人気を改めて知りました。

 

 

文字通りのスーパースター、ヴァレンチノはマレの友人の一人でした。

当時バレエの世界は映画と極めて近しい事もありますが、個人的な共通点としてはゲイであったことも大きいようです。

差別と間違われるといけないので、注意が必要ですが、芸術界のゲイネットワークの強さ広さというのは驚く部分があります。彼との関係はセクシュアルなものではなかったようですが、しばしば旅を共にしたり、自宅へ招いたことが分かっています。

 

 

こうした輝かしいスターは例えばバレエ・スエドワの初日の客席も彩りました。バレエの「初日」は長らくブラックタイ着用が常識であったことからも分かるように社交界にとってもバレエ界にとっても重要なものでした。

たとえば、1923年の初日の客席にはヘラルド・トリビューン紙によれば、ヴァレンチノに加えて、俳優ジョン・バリモア(映画『E.T.』のエリオットの娘役で有名になったドリュー・バリモアは彼の孫娘)、バレエ・リュスの主宰者ディアギレフ、その協力者でもある2人の画家バクスト、ラリオノフらの名前が並んで紹介されています。翌年の初日にはヴァレンチノは出席しなかったようですが、ディアギレフ、女優グロリア・スワンソン、「ソワレ・ド・パリ」という独自の公演を成功させたエチエンヌ・ド・ボーモン伯爵らの名が見えます。

 

 

映画はまだ一般化するようになってそれほど時が経っていなかったこともあったため、現在よりも劇場芸術の世界と映画俳優の世界の距離が近かったのです。

 

 

マレと彼らとの関係はただ、自分の主宰しているバレエ団の初日に招くというだけではなく、例えばパリのサン・シモン通りのパリの自宅でのパーティーにも招くなど個人的な関係を築いています。藤田嗣治、レジェ、イサドラ・ダンカン、アンナ・グールドといった今からみると1900~1920年代を代表する人達が並んでいます。

残されたマレが日々持ち歩いていた小さな手帳には彼らの連絡先が沢山書かれています。画家シャガール、ドラン、タマラ・ド・レンピッカ、ピカビアといったバレエ・リュスとは少し違うサークルの人達やマン・レイ、キリコ、ボナール、ピカソ、といったバレエ・リュスと重なる人達の名もあります。

マレならではの交際範囲といえそうです。

 

 

ヴァレンチノのアシスタントでありスクリーンテスト等を行っていた役者アンドレ・ダヴァンはマレにとってボルランの次のボーイフレンドとなりました。公私共に親しい関係だったわけです。

アンドレ・ダヴァンは、古い映画を知っていたら聞いたことがあるだろうグロリア・スワンソンのエージェントも務めることになったので、マレの近くには映画関係者も集うようになったのでした。その中にはメアリー・ピックフォードと結婚したダグラス・フェアバンクスもいました。

彼らのサイン入りの写真がマレのコレクションには沢山ありますし、自宅に置かれていた芳名帳にも見つけることができます。

 

 

マレが映画界の人達との交流が結実した作品の筆頭に挙げられるのが、1925年の世界初のバレエの一部としてルネ・クレールが映画『幕間』が含まれた『本日休演』の上演です。バレエに初めて映像が使われた作品としても記録されています。

 

 

映像について、ディアギレフは信頼しきれない気持ちを抱いていましたが、マレは新しい可能性としてとらえていましたし、民族舞踊の記録では積極的に映像を用いています。元々映像に関心があったからこその交流であったということもあるでしょう。

 

 

ルネ・クレールの『幕間』はバレエ『本日休演』のために制作された短編映画ですが、現在はパブリックドメイン版が公開されていて見ることができます。

https://www.youtube.com/watch?v=2kGOIysVl8I

 

 

撮影には当時マレがバレエ・スエドワの本拠地として借りていたシャンゼリゼ劇場の屋上が使われています。マレとボルランはもちろん、ピカビアらが出演している、資料としても極めて重要な作品です。

ボルランはこの他にも映画に出演していますが、役者としては大成しませんでした。ニジンスキーと違ってそのような映像も残っているボルランのダンサーとしての評価はなぜかまだまだ遅れています。

 

 

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さてこの連載もあと2回を残すところになりました。

終了後、Zoomにてバレエ・スエドワについてのトークイヴェント行います。詳細次回発表いたします。

Zoomだからこそのバレエ・スエドワのコレクション紹介もできるかもしれない、と検討中です。

「牧神」を演じるヴァレンチノ

ハリウッドの女優で衣裳、美術デザイナー、2年間ヴァレンチノの妻だったナターシャ・ランボワによってプロデュースされた「牧神」を演じるヴァレンチノ。ナターシャは最初はバレエ・ダンサーを目指していた。

グロリア・スワンソンとルドルフ・ヴァレンチノ

グロリア・スワンソンとルドルフ・ヴァレンチノ、1923年 2点 Emily W. Leider “Dark Lover The life and Death of Rudolph Valetino” 、2003より

まつ毛が長く驚くほど美しい茶色の瞳だったというアンドレ・ダヴァンとマレ1920年代

(エリック・ナスランド著『ロルフ・ド・マレ』2009年、より)