Photos provided by the Leisure and Cultural Services Department of HKSAR
孔雀モチーフが多用された王宮。広がるトレーンも良く映えます。

プログラム表紙にはカラボス姿も

 遅いアップになってしまいましたが、今年も香港パフォーミング・アーツ・フェスティヴァルに行ってきました。今回は3日間全3回の『眠れる森の美女』を見ることができました。ナチョ・ドゥアトは日本でも知られる振付家ですが、彼の全幕作品はなかなか見られないので、どんなものかしらと行ったのです。

 ドゥアト版はロシア、ミハイロスキー劇場バレエ団に2012年に振付けたもので評判や情報が断片的なままの初見となりました。

 

 物語はそのまま、「プティパへの敬意があり、それを尊重し大きく解釈変更をしたり変える事は考えなかった」との事。

 確かに物語の解釈や役に大きな変更点はありません。とはいえ、ナチョらしさは随所に見られました。例えば他のクラシック・バレエでは見られない大きく胸をそらせる動きや、コンテンポラリー作品ではお馴染みになったベジャールの振付にもよく見られる足を開いて膝が直角になるほどに腰を落とした動きなど、他のナチョ作品に良く見られる振りが多用されます。また、「踊らない人はいない」との言葉通り、王と王妃はもちろん、小姓たちも踊りながら退場するなどダンサブルな仕上がりになっていました。

 それを良いと思うか、うるさいと思うかは意見の分かれるところでしょう。私にとっては場面によっては踊らない「居る」だけの役がバレエでは実は重要だったと気付いた作品ともなりました。

 3幕の始めは物語の世界の登場人物たちがその世界への窓なのでしょう、雲に開いた丸い穴から覗いている場面で始まります。何とも可愛らしい場面で印象的でした。(本質的な部分ではなく、円形に登場人物が並ぶ感じや、多数出演する物語の人物たちなど「見た目」は英国ロイヤルバレエ団のダウエル版と似ている部分もあります。)

 この場面では「かえるの王さま」などほとんど踊らない役も登場します。また衣裳のデザインはボンデージファッション風に見える「長靴をはいた猫」、ゴスロリ風に見える「赤ずきんちゃん」など独特のテイスト。これは好みの分かれる所かもしれません。振付も独特のものが多く、「長靴をはいた猫」は音楽が明確なだけに振付には違和感を感じました。

 美術・衣裳はロシア人デザイナーアンジェリーナ・アトラジクによるもの。伝わるかどうか分からないのですが、見ていて思ったのは「オルガルヒ趣味」という言葉。(そんな言葉はありませんが、ぽんと頭に浮かびました)肥大化した帝政趣味とでも言えばいいのでしょうか。ロシアの新興成金の人達が好きそうなイメージと言った方が分かりやすいかもしれません。悪趣味ギリギリの雰囲気です。(決して悪趣味とは思いませんでした、念のため。)ロシア人でなければデザインできなさそうな独特の雰囲気です。そのバランスをとるためもあるのでしょう、美術はその分大変シンプル。デジレが乗った船が進む場面では森が動く仕掛けもありました。